拠点メンバー

大隅 典子(神経発達学)

大隅典子

1988年東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了。歯学博士。1988年同大学歯学部助手、1996年国立精神・神経センター神経研究所室長を経て、1998年より現職。2006年より総長特別補佐。日本学術会議第20期会員。専門は発生生物学、分子神経科学。2005年より科学技術振興機構の戦略的創造研究(CREST)の代表者として「ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明」に従事。著書に『神経堤細胞』(共著、東京大学出版会、1997年)、人体発生学(分担、南山堂、2003年)、訳書に『心を生みだす遺伝子』(岩波書店、2005年)、『エッセンシャル発生生物学第2版』(羊土社、2007年)など。ナイスステップな研究者in 2006を科学技術政策研究所より授与。


研究内容の紹介

脳がその高次機能を発揮するためには、発生過程で多種類のニューロンが決まった位置に決まった数だけ配置し、それらの間に正確な神経回路が形成されるとともに、ニューロン以外のグリア系細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)がニューロンの機能を助けたり、血管と作用することによって酸素や栄養を取りこんだり、炎症等の障害修復を行うことなどが必要である。胎生期における脳構築過程の大部分は遺伝的プログラムに支配されているが、脳の構築は胎生期で完了するものではなく、その後も種々の改変修飾が為されつつ進んでいく。また、神経発生の初期に形成される神経堤という領域は、末梢神経系のニューロンやグリアを生みだすばかりでなく、頭部においては硬組織や血管平滑筋、血管周皮細胞などを形成するといった多様な分化能を有する。私たちはこのような神経系の発生発達について、分子および細胞レベルの研究を行っている。とくに焦点を当てているのは、初期脳の領域化、胎生期から成体に至るまでの神経幹細胞の増殖と分化(神経新生)、神経堤の成立機序と分化機構などである。中でも、神経新生は脳の発生において重要であるだけでなく、脳機能の恒常性維持にも働いていると考えられ、その低下はうつ状態などの精神異常を招く要因になることが指摘されている。

上記のような研究のためには様々な実験系が必要であるが、我々はその開発にも積極的に取り組んでいる。例えば、「全胚培養法」という器官形成期哺乳類胚を試験管の中で培養する方法と「電気穿孔法」による遺伝子導入の系を組み合わせ、直接的に哺乳類胎児脳へ遺伝子導入するという独創的な方法を開発した。この方法はトランスジェニックマウスの作製やウイルスベクターを用いた方法よりも簡便で導入効率の良いこと、また発生の時期および場所を特定して遺伝子導入することができることが利点として挙げられる。脳の構築がより複雑になっていく胎生後期胚に対しては、子宮内手術法と電気穿孔法を組み合わせた系を開発している。また、なるべく生体内に近い状態において神経幹細胞等の挙動を調べるために、タイムラプスイメージングの実験系の開発改良にも取り組んでいる。さらに最近では、脳の発達や加齢の過程における神経新生の様態と精神疾患とのつながりという観点から、モデル動物の行動解析を行っている。

脳の発生発達や恒常性維持に関しては、さまざまな環境因子も影響する。我々はとくに栄養的側面に着目し、神経新生に対する高度不飽和脂肪酸(DHAやアラキドン酸など)の役割について、齧歯類の生体および培養細胞系を用いて解析を進めている。また、成体脳における神経新生に関して、運動等における血流の増加による亢進作用があることから、薬物投与により血流を増加させることが神経新生に与える影響についても検討している。このような研究は、神経新生の低下が関係する可能性のあるうつ病や統合失調症等の精神疾患の予防や治療の開発に資する可能性が期待される。

図1:神経幹細胞の形態と分化直後のニューロン(神経細胞)
蛍光タンパク質により標識された菱脳神経幹細胞。神経幹細胞は細長い突起を持ち、脳室面側(図の下)と基底膜側(図の上)に接着している。脳室面側で最終分裂を終え、基底膜側に移動したニューロンが中心付近に存在している。

図2:電気穿孔法による神経幹細胞への外来遺伝子導入
電気穿孔法により緑色蛍光蛋白質遺伝子(EGFP)を培養ラット胚の脊髄原基の神経幹細胞に導入し、24時間全胚培養を行った。蛍光撮影により、蛍光蛋白質が発現していることがわかる。Hb:菱脳, sc: 脊髄, fl: 前肢

図3:生後海馬における神経幹細胞
生後4週齢マウス海馬歯状回における神経幹細胞の増殖。BrdU(ヌクレオチドの類似物質)を投与すると、増殖能を有する神経幹細胞は抗BrdU抗体により検出される(マゼンタ)。またこれらの細胞はFABP7蛋白質を発現している(緑)。GCL:granule cell layer; SGZ, subgranular zone

図4:生後海馬におけるアストロサイト
生後4週齢マウス海馬歯状回におけるアストロサイト 歯状回において、FABP7を発現する神経幹細胞/前駆細胞(緑)のほかに、GFAPを発現するアストロサイト(マゼンタ)が多く観察される。

動画

動画1:タイプラプス撮影によるエレベーター運動の可視化
電気穿孔法によりEGFP-Histone融合蛋白質遺伝子をラット脊髄原基に導入後、スライス標本を作製し、共焦点レーザー顕微鏡により5分間隔でタイプラプス撮影を行った。融合蛋白質が核内に取り込まれ、神経幹細胞の核の移動運動(エレベーター運動と脳室面での細胞分裂の様子が可視化されている。

代表的な論文
  1. 1. Matsuo, T.*, Osumi-Yamashita N.*, Noji, S., Ohuchi, H., Koyama, E., Myokai, F., Matsuo, N., Taniguchi, S., Doi, H., Iseki, S., Ninomiya, Y., Fujiwara, M., Watnabe, T., & Eto, K.: A mutation of the Pax-6 gene in rat "small eye" was associated with migration defect of midbrain crest cells. Nature Genet. 3, 299-304, 1993(*共に筆頭著者)
  2. 2. Osumi, N., Hirota, A., Ohuchi, H., Nakafuku, M., Iimura, T., Kuratani, S., Fujiwara, M., Noji, S., & Eto, K.: Pax-6 is involved in specification of the hindbrain motor neuron subtype. Development 124, 2961-2972, 1997
  3. 3. Inoue, T., Tanaka, T., Takeichi, M., Chisaka, O., Nakamura, S., & Osumi, N.: The role of cadherins in maintaining the compartment boundary between the cortex and striatum during development. Development 128, 561-569, 2001
  4. 4. Nomura, T., and Osumi, N.: Misrouting of mitral cells in Pax6/Small eye rat telencephalon. Development 131, 787-796, 2004
  5. 5. Arai, Y., Funatsu, N., Numayama-Tsuruta, K., Nomura, T., Nakamura, S., & Osumi, N.: The role of Fabp7, a downstream gene of Pax6, in maintenance of neuroepithelial cells during early cortical development. J. Neurosci. 25, 9752-9761, 2005
  6. 6. Takahashi, M. & Osumi, N.: Pax6 regulates specification of ventral neuron subtypes in the hindbrain by establishing progenitor domains. Development 129, 1327-1338, 2002

出版・媒体

 

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