拠点メンバー

山元 大輔(行動遺伝学)

山元大輔

1978年東京農工大学大学院修士課程修了。1981年理学博士(北海道大学)。1980年より1999年まで三菱化学生命科学研究所研究員、1981年より1983年までノースウェスタン大学医学部博士研究員、1994年より2000年まで、科学技術振興事業団山元行動進化プロジェクト総括責任者。1999年早稲田大学人間科学部教授就任。同大学理工学部教授を経て、2005年より現職。日本遺伝学会評議員。専門は行動遺伝学。著書に『男と女はなぜ惹きあうのか』『心と遺伝子』(中央公論新社、2004年、2006年)、『浮気をしたい脳』(小学館、2007年)など多数。


研究内容の紹介

雌と雄とは異なった行動様式を示す。それはなぜなのだろうか。生物学的に考えれば、行動の性差は脳の機能や構造の性的二型に根差しているとするのが自然である。この問題にアプローチするため、私たちはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を実験材料に選んだ。この生物には行動にはっきりした性差があり、また、遺伝学的な手法を用いて複雑な行動の解析をすることが可能だからである。

キイロショウジョウバエの雄が雌に出会うと、たいていすぐに求愛行動を開始する。雄は標的の個体に体を向けて追跡を始め、続いて片方の翅だけを交互に激しくはばたかせることによって、求愛歌と呼ばれる特有の音を発生させる。続いてリッキングを行い、交尾を試みる。相手の雌が受け入れる場合には、マウントして20分近く交尾が続く。

これに対して雄と雄が出くわすと、しばしば攻撃行動が惹き起こされる。頭から向かっていって追い払おうとしたり、時には前脚で“なぐる”こともある。雄に向かって最初求愛することもあるが、そうした場合にはすぐに“気が付いて”攻撃にきりかえる。数ある行動レパートリーの中から、“社会関係”依存的に特定の行動が選ばれるのである。こうした行動の選択に基づき、どの運動中枢が活性化されるかが決まり、その結果、ある一つの行動が現れると考えられる。

運動中枢の選択は、行動制御の神経階層のより上位の中枢、“意思決定中枢”によってなされると推測されるが、その実体は明らかではない。この“意思決定中枢”や各運動中枢を特定するためには、行動に関わるニューロンを網羅的に同定することが必要である。

私たちはMARCM(Mosaic Analysis with Repressive Cell Markers)という手法を用い、遺伝子型が周囲と異なる少数の細胞クローンを脳内に生み出し、それらの細胞だけを操作して、行動を変容させる実験を進めつつある。MARCM法ではあらかじめ全細胞に持たせておいたGal80遺伝子を、発生の途上で一部の細胞から体細胞染色体組換えにより取り除く。Gal80は転写因子Gal4のリプレッサーであるため、これを失った細胞でのみGal4遺伝子の作用が現れる。
このGal4の作用を利用して、染色体組換えを起こした少数の幹細胞由来のニューロンだけに任意の遺伝子を発現させ、その細胞だけを標識、活性化、あるいは不活性化させることが可能になる。

私たちは、fruitless遺伝子を発現する細胞に着目して、MARCM解析を進めていく。fruitless遺伝子が機能を失った突然変異体の雄は、雌に求愛せず雄に求愛するようになり、交尾もしない。つまり、雄―雄の出会いによって解発される行動が、攻撃ではなく求愛に転換する。そこで、fruitless遺伝子の操作を通じ、行動の選択を支配する“意思決定中枢”やそれによって駆動される“運動中枢”の実体を解明していく。

図:キイロショウジョウバエの脳内に存在する性差を示すfruitless発現ニューロン集塊, mAL。mALは雄では30個、雌では5個のニューロンからなり、その投射、樹状突起叢の形態も、性的二型を示す。

代表的な論文
  1. 1. Kimura, K-I., Ote, M., Tazawa, T. and Yamamoto, D. (2005) fruitless specifies sexually dimorphic neural circuitry in the Drosophila brain. Nature, 438, 229-233.
  2. 2. Kondoh, Y., Kaneshiro, K. H., Kimura, K-I. and Yamamoto, D. (2003) Evolution of sexual dimorphism in the olfatory brain of Hawaiian Drosophila. Proc. R. Soc. Lond , Ser B . 270, 1005-1013.
  3. 3. Usui-Aoki, K., Ito, H., Ui-Tei, K., Takahashi, K., Lukacsovich, T., Awano, W., Nakata, H., Piao, Z., Nilsson, E., Tomida, J. and Yamamoto, D. (2000) Formation of the male-specific muscle in female Drosophila by ectopic fruitless expression. Nature Cell Biol. 2, 500-505.
  4. 4. Ito, K., Awano, W., Suzuki, K., Hiromi, Y. and Yamamoto, D. (1997) The Drosophila mushroom body is a quadruple structure of clonal units each of which contains an almost identical set of neurons and glial cells. Development 124, 761-771.
  5. 5. Ito, H., Fujitani, K., Usui, K., Shimizu-Nishikawa, K., Tanaka, S. and Yamamoto, D. (1996) Sexual orientation in Drosophila is altered by the satori mutation in the sex-determination gene fruitless that encodes a zinc finger protein with a BTB domain. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 9687-9692.

出版・媒体

 

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